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0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

追悼 寺田農




寺田農氏が亡くなった。

「肉弾」「赤毛」他の岡本喜八映画や、「ラブホテル」他の相米慎二映画、「夜がまた来る」などの石井隆映画、「無常」他の実相寺昭雄作品の常連俳優としての癖の強い好演がやはり印象深く、とても良かった。

実相寺のTV作品「ウルトラマンマックス」の「狙われない街」でのメトロン星人役も素晴らしかった。

同じくTV「必殺仕事人スペシャル 大老殺し 下田港の殺し技珍プレー好プレー」の、地獄組の頭で、両手両足がミサイルの殺し屋・鉄眼役なども忘れ難い。

また「恐山の女」の廓の吉村実子と恋仲になる出征前の客役や、主演作「うれしはずかし物語」の、なんとも人間臭い中年男役、「天空の城ラピュタ」のムスカの声なども見事な名演だった。

Vシネマ「七人のスロッター」の骨董屋にしてパチスロ集団の元締め役なども妙にカッコよかった。

シリアスな存在感と奇妙なコミカルさ、人間臭さとインテリっぽい不気味さ、生々しい情感に満ちているようでどこかクールでニヒルな個性、非情な悪党なようで妙に情緒豊かな内面をも感じさせる、という、いつも相反する個性が同居しているような、なんとも独特の複雑さと味わい、存在感のある名優だった。

寺田農さん、ご冥福をお祈り致します。

2024/03/26(火) 00:16:18 R・I・P トラックバック:0 コメント(-)

『変な家』




石川淳一『変な家』、


オカルト専門の動画クリエイター・間宮祥太朗はマネージャーのDJ松永から、購入予定の一軒家の間取りにおかしな点があると相談される。

間宮は自身のオカルトネタの提供者でミステリ愛好家の設計士・佐藤二朗に意見を聞くと、間取り図から次々と奇妙な違和感が浮かび上がり、佐藤はついには恐ろしい仮説を立てる。

その後、その一軒家の近くで死体遺棄事件が起き、事件と家との関連を疑う間宮がその疑惑を自らの動画チャンネルで発信すると、「その家に心当たりがある」という川栄李奈から連絡が来るが。





人気YouTube動画をもとに、制作者の雨穴が物語化した小説を映画化した作品。


どちらかと言うと日本版陰湿ゴシックホラー寄りの出来である。

だが、ミステリ的な展開の妙が減ったとは言え、"変な家"の間取りの謎に対する推理、捜査から、あくまでミステリ的謎解きで語る展開は健在で、それが中々スリリングである。

単なるホラー映画だとその辺が大味で、雰囲気やこけおどしだけで持っていこうとするが、あくまでミステリー展開を基盤にしているところが美点だったりする。

だがこれは元々ミステリー的魅力の強いものと原作が思われているからか、その魅力が減ったことが評価を下げているのかもしれない。

イマイチ評価が低いのはそれ故だろうか。

一時期のJホラーブームの頃の大味なこけおどしばかりで、なんだか適当な描写が多かった日本のホラー映画よりちゃんとした作りだと思うのだが。

その点はもっと評価されるべきだと思う。

どうも世間は、一時期のやたらとこけおどし一辺倒だったJホラーは随分褒めたくせに、ミステリーがゴシックホラー寄りになると、そのミステリー部分が減ったことばかり批判する傾向があるようだが、それはなんだかジャンルに縛られた視野の狭い見方な気がするのだが。

最初の間宮祥太朗襲撃描写のリアル感は中々なものだし、高嶋政伸や石坂浩二の顔が随分変わって見えるところも良かった。

一見問題が全て解決したようで結局最後はブラックなオチで終わるが、最後まで念入りに作られている映画だと思う。

それと、これは同じ東宝ホラーの過去の秀作「悪魔が呼んでいる」の末裔的作品にも思えた。

サスペンスミステリ展開が日本版陰湿ゴシックホラーとなっていくところがちょっと似ているからである。

そういう意味では東宝ホラーの系譜に連なる作品だとも思う。

世評が低すぎるのが残念だが、それなりに面白い出来の一篇。 2024/03/23(土) 00:20:36 東宝 トラックバック:0 コメント(-)

『惜春』




中村登『惜春』、

"糸屋新堂“は8代続いた老舗だが、8代目当主が亡くなり、四十九日目法要で遺言書が公開される。

遺言には三人姉妹、新珠三千代、香山美子、加賀まりこのうち、糸屋を継ぐにふさわしい婿と結婚した娘に店を相続させると書かれていた。

長女の新珠は正妻の子だが、香山と加賀は、芸者上りの妾で、今は浜町の料亭の女将をしている森光子の子だった。

糸屋の店には、亡き正妻の親類筋、早川保がいて、ほぼ糸屋の支配人候補だったが、彼は新珠が好きだった。

早川は新珠に結婚して二人で糸屋をやっていこうと言う。

糸屋大坂進出を契機に、新珠は帯の下絵のデザイナー平幹二朗に会う。

平の父、東野英治郎は関西の紐作り名人だった。

新珠は帯締創作のため、奈良にも行くが、そこで新珠は東京から追ってきた早川と不意に結ばれる。

加賀は平が好きだったが、平は新珠のことを愛していることを知り、絶望しながらも平を諦められなかった。






平岩弓枝の原作を映画化した、恋愛&女の生きる道映画。

新珠三千代は父の技術を受け継いでいる正妻の娘だったが、奥ゆかしいのか迷っているからか、いつの間にかぼーっとしてるくせにやたらと狡猾な香山美子の妹に婚約者を寝取られる。

また、自分のことを愛してくれていた平幹二朗に妹の加賀まりこがマジの横恋慕していたため、新珠と平がコラボして京都で催した創作ファッション・ショーが大成功した夜、自殺未遂までした加賀に、新珠は平を譲ったようなことを最後に言っていたりと、まあひたすら新珠が全てにおいて謙虚な女性であることが描かれていく。

森光子がちょっとした悪役で、妾、妾と馬鹿にされてきたからか、家の財産狙いを露骨にやり、それに娘の香山美子が乗っかるのだが、最後には森などより香山の方がバカのふりして狡猾であったことがわかり、こののほほんとした香山美子の悪ぶりは中々である。

加賀まりこの方は、平幹二朗に純愛の気持ちを持っていても相手にされず、苦しんだ挙句自殺未遂となるので、遊び人のようなことを言っていた割に純情で、積極性はあるけどあんまり狡い女では無いのだが、その純情さ故にか、新珠三千代は平幹二朗を加賀に譲ったようなことを終盤に言う。

一番モテモテなくせに新珠三千代はひたすら奥ゆかしいというか謙虚というか、望んでいた幸せを全部奪われてしまうが、しかし彼女には父から受け継いだ紐作りの技術があり、家も恋人も捨てた新珠は紐作りに生命を賭けて生きていこうと決意して映画は終わっていく。

いかにも昔のやまとなでしこといった感じの女性の役に新珠三千代はピッタリである。

今時こんな古いタイプの女性はもう少ないような気もするが、でも意外とまだまだこういうタイプの女性は日本に結構いて、今の時代、例えば"結婚せず仕事に生きる憧れの女性"と言われる人の中に、実は自己主張が強い女性ばかりでなく、こういう古風なタイプの善良な女性が混じっているような気もしてくる。

この映画は女性の自立という新しいテーマと古風で控えめな日本女性というものを両方描いている映画に思える。

新珠三千代は、古風すぎて、見ていてちょっとハラハラしたりもどかしかったりするところがあるが、それ故にか、最後、東野英治郎の信楽の里を訪れ、そこで一人自立して生きていくことを宣言する姿はかなり立派に見える。

でも結局、香山美子はうまくやったように見えて、どうもこの後、8代続いた老舗・糸屋新堂を盛り立てていけるようには見えないし(だいたい老舗が伝統の技術継承者である新珠三千代無しでやっていけるとは思えないので)、平幹二朗もいくら自殺未遂した加賀まりこを見舞って一時的に同情したとしても、気持ちはずっと新珠の方にあるように思えるので、この映画の後日談があるとするなら、結局実家の老舗を継ぐのも、平と結ばれるのも新珠三千代になるのではないか?という気もするが。

中々にちゃんとした出来の佳作な一篇。
2024/03/19(火) 06:43:50 松竹 トラックバック:0 コメント(-)

『デューン 砂の惑星 PART2」(IMAX)




ドゥニ・ヴィルヌーヴ『デューン 砂の惑星 PART2」(IMAX)、

アトレイデス家とハルコンネン家は100年間壮絶な戦いをしてきたが、ハルコンネン家の策略でアトレイデス家の後継者ティモシー・シャラメは一家全員を失う。

唯一生き残ったティモシーは、惑星アラキスでレベッカ・ファーガソンらフレーメンとハルコネン家のパトロールを打ち破る。

ティモシーとレベッカがシエッチ・タブルに到着した時、フレーメンの一部は二人がスパイではと疑うが、ハビエル・バルデムらは"外の世界から来た母子がアラキスに繁栄をもたらす"という予言の兆しだと信じ、ティモシーに期待する。

その頃、皇帝のクリストファー・ウォーケンの娘、皇女フローレンス・ピューはまだティモシーが生きているかもと日記に書いていたが、皇帝はアトレイデス家壊滅に協力したことに意気消沈していた。

その後ティモシーは、復讐のため、砂漠の民ゼンデイヤと恋仲になり、最終戦争に挑むが。






『デューン』シリーズの続編。

かってないほどの大迫力SF時代劇映画。

画面の大迫力だけでなく、映像の揺れに伴う振動のデカさも半端なく体感出来、IMAX鑑賞が大正解であった。

まさに"新映像体験"という言葉が、何の誇張も、嘘偽りもなく、完全にぴったりくる大迫力のSF映画である

兵器を使ってのSF的デジタル戦闘場面の大迫力と、人間と人間がぶつかり合う時代劇の大立ち回りのようなアナログな生々しさの戦闘の同居ぶりが前作以上に自然で見事だった。

その合間に、アトレイデス家の後継者ティモシー・シャラメの復讐劇がご本人の精神的成長や恋愛なども織り混ぜて進んでいき、徐々にあらゆる真実が見えてきて複雑な立場となっていく中でも、信念を持って突き進むティモシーの姿が描かれている。

ちょっと人物関係や展開が途中錯綜的にややこしくはなるが、基本的な関係性は明確なのでそれほど混乱することなく見ていられる。

いずれにしても実にあっという間の166分なので、もたついた映画では全くない。

この映画を見ていて一番思ったのは、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が日本の「戦国自衛隊」を映画化したら、かっての芳しくない出来の二作の映画を何倍も超える大迫力の傑作が出来るのではないかということだった。

「戦国自衛隊」も自衛隊の最新戦闘技術と、戦国時代の武将たちとの戦いという、謂わば最新鋭の兵器による戦闘と、人間と人間がぶつかり合う生身の戦いが同居した作品なので、それがこの映画くらいの大迫力になったものを是非見てみたいなと思った。

映画新次元という言葉が何ら誇張なく似合っている、凄ざまじい大迫力SF映画の秀作な一篇。
2024/03/16(土) 19:26:05 外国映画 トラックバック:0 コメント(-)

『赤い靴とろくでなし』




牛原陽一『赤い靴とろくでなし』、

南国の港町で、ろくでなしコンビの宍戸錠と井上昭文はナイスバディに赤い靴のいい女・水谷良重と知り合うが、水谷はいきなり関東を牛耳るヤクザ組織を乗っ取ろうという大計画を二人にもちかける。

宍戸と井上は翌日から組織の興業場を襲撃しまくり大金を強奪。

社長の田中明夫や用心棒の小池朝雄は怒り出すが、宍戸と井上、水谷の3人は10億円ほどの金を集め、宍戸と井上は大親分になろうと躍起になる。

実はこの組織は以前は水谷の父が経営していたが、父の死後、田中に譲られた。

だが水谷は乗っ取りの疑惑から田中に復讐しようとしていたのだった。

水谷は父の死後消えた弁護士の木浦佑三を探していた。





牛原陽一の"ろくでなし”シリーズ2作目。

宍戸錠と井上昭文が中々の名コンビで、そこに峰不二子みたいな水谷良重が関わってきて二人を焚きつけるという、なんとなくルパン三世チックな感じがするコミカルアクション喜劇。

しかしこの映画の中で一番の曲者は小池朝雄である。

小池は最初宍戸錠と対決する時も妙に強かったりするのだが、そこで小池に叩きのめされた宍戸が、逃れたバーで何故か何食わぬ顔でいたりするという変なシュール描写となるのがちょっと面白い。

あれ?小池朝雄との対決どうなったの?と思わせるも、次に出てきた時、小池は何事もなかったように宍戸の前を平気で素通りしたりして、ちょっと鈴木清順的なシュール感が急に出ているところが面白かったりする。

また、途中水谷からの指示で宍戸と井上は密輸船を襲いダイヤを奪うも小池らに井上が捕まってしまうが、井上はすぐに火事を装って逃げ出し、その帰途に遊覧船で働く笹森礼子が登場し、弁護士の木浦の妹らしいとわかる。

ここで、ほとんど日活アクションのヒロイン役を演じてきた笹森礼子がなんだか随分中途半端な脇役で出てくるところも変わっている。

そこから木浦をめぐって敵と攻防戦となり最終的にはドンパチとなるのだが、ここでまた意外な展開となる。

なんといきなり小池朝雄の用心棒が敵を裏切りだし、宍戸らの味方につくのである。

それによって宍戸錠らは脱出に成功してしまう。

この辺り、いかにコミカルなアクション喜劇といえども定番のプログラムピクチャーのパターンから言ったら実に不思議な急展開である。

その後追撃してくる敵のヘリコプターが追いついて手榴弾が飛ぶも、宍戸特製のインスタント高射砲でヘリは撃ち落とされ、木浦の証言で組織の莫大な財産は水谷に譲られ、宍戸と井上は念願の重役になれると思いきや水谷が全財産を孤児に寄付してしまいおじゃんとなる。

しかしこのラストでも、社会奉仕のため修道院に小池が水谷と共に入るという変な顛末で映画は終わっていくのである。

とかように、この映画は悪役のはずの小池朝雄が本当は主役なんじゃないか?と思えてくるほど、極めて不思議なキャラ変というか、シュールなくらいのいきなりの変節ばかりが描かれ際立っている。

こんな変なシュールなまでのキャラ変は鈴木清順の映画でもあまり描かれたことがないと思うので、牛原陽一という割と安定したプログラムピクチャーを撮る監督の作品にしては随分と捻りが効いた映画となっている一篇。 2024/03/12(火) 01:08:41 日活 トラックバック:0 コメント(-)
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