FC2ブログ

0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

『こころ』




市川崑『こころ』再見、

学生の日置=安井昌二は、先生=森雅之を尊敬していたが、先生は謎めいたところのある人だった。

先生と安井は海水浴中に出会ったが、安井はその時先生に惹かれる。

その後も安井は先生の自宅へ勉強に通ったが、先生には美しい妻、新珠三千代がいて、子供のいない夫婦だけの家庭だった。

先生と妻は別に仲が悪くはないが、幸福そうでもなく、安井は徐々に先生の孤独さや夫婦の暗い空気が気になっていく。





夏目漱石の有名な原作を、市川崑が映画化した作品。

東宝作品では、軽みのあるシニカルなコメディを撮っていた市川崑が、日活で随分と真摯な文芸映画を作ったという感じの作品。

しかし文芸映画特有の小難しさというものはあまりなく、真正面からダイレクトに人物を捉えているので、かなり輪郭のはっきりした見易い映画になっている。

森雅之の先生役も、三橋達也の回想場面に登場する友人・梶役も、森を慕う学生・日置役の安井昌二も、皆、明確なキャラとして描かれ、持って回った描写が実に少ない映画である。

ただそれでも、新藤兼人が監督した同原作の映画化作品の、あの絶妙なサスペンス感というか怖さは、真正面からストレートに描いている分やや薄く、個人的には新藤兼人版「こころ」の方が上だと思うが、だからといって別に市川崑がダメな映画を撮ってるわけでは全くなく、ただ新藤兼人版の出来があまりにも良すぎる大傑作だというだけで、こちらはこちらで中々の秀作になってる。

いつもの市川崑らしいシニカルな軽みは、ある意味ファムファタール的存在とも言える先生の奥さん役の新珠三千代の描き方に少し出ている感じだろうか。

大学を卒業した安井が、先生=森に就職口を頼み、病床の父の看病のため田舎に帰っている間に、明治天皇が崩御し、明治の精神の終わりを悟った森が、自分の辛い人生にそれを重ねて、安井に手紙を出すまでの描写には、森が罪悪感に追い詰められていく様が描かれている。

回想場面における、森の犯した罪と、死んでしまう友人三橋達也の描写も中々繊細かつ絶妙なタッチで描かれている。

新珠三千代の無意識の無邪気さが悲劇を生んだかのように描かれ、新珠の母役の田村秋子が、どこか森の共犯者のようにも見える不気味さも、秀逸な名演と描写になっている。

そして、新珠の過去の無意識の罪深さを、森が終生妻となった新珠には悟られまい、知らせまいとする心情すら切なく伝わってくる。

その後、森からの手紙を読む安井が「この手紙の着く頃には、自分はこの世にはいないでしょう」という遺言めいた言葉を読むが、この場面の、手紙を光と影で仕切ったような描き方も中々意味深で良い。

そんなわりと良く出来た秀作な一篇。 2021/05/04(火) 04:01:54 日活 トラックバック:0 コメント(-)

追悼 菊池俊輔




菊池俊輔さんが亡くなった。

特撮、アニメ、刑事ドラマ、時代劇や映画シリーズの誰もが知ってる音楽を大量に作られた偉人だった。

「仮面ライダー」「ドラえもん」「タイガーマスク」「ドカベン」「Gメン'75」「キイハンター」「暴れん坊将軍」他などなどのテレビ特撮、アニメ、ドラマのサントラが特に有名だが、映画音楽も「昭和残侠伝」シリーズ、「ガメラ」シリーズ、「女囚さそり」シリーズと「怨み節」の作曲、「0課の女 赤い手錠」「昆虫大戦争」他などなど多数の音楽を担当された。

個人的にはテレビの「江戸川乱歩シリーズ 明智小五郎」や「刑事くん」や、映画「吸血鬼ゴケミドロ」の音楽が一番良かった。

昭和の時代からのドラマ、特撮、アニメ、プログラムピクチャー映画といった、職人監督や職人的なスタッフが作る作品の音楽を多く担当された、こちらもどこか職人的な音楽家だったように思う。

確実に一つの時代を作り上げた音楽家だった。

菊池俊輔さん、ご冥福をお祈り致します。

2021/05/01(土) 00:47:45 R・I・P トラックバック:0 コメント(-)

『淫乱病棟 巨乳で看護』

小川欽也『淫乱病棟 巨乳で看護』、

看護婦の加藤由香は、夫の竹本泰志が酒乱のDV男で、竹本は酔うと嫉妬深さから加藤を疑って暴力を振るい、加藤はレイプまがいのSEXを強要されていた。

加藤はそのことを人に相談したことがなかったが、ある時、婦長の小川真実に、身体の痣を見られたことから告白する。

二人は次第にレズ関係になっていくが、ある日、加藤が夫からのDVをまた受けた時、小川から酒に睡眠薬を入れ静脈注射することで急性アルコール中毒による心筋梗塞に見せかける殺人方法を聞く。

そして小川はかって医療ミスをした医師の弱味を握っているので、心筋梗塞の死亡診断書を書かせると加藤に約束する。

加藤はその方法で竹本を殺し、完全犯罪となる。

しかし小川は加藤に竹本にかけた保険金の分け前を要求し、その上さらなる要求をエスカレートさせていく。





看護師ものの犯罪映画。

加藤はすでに捕まっており、取調室の尋問の合間に回想形式で事件の様子が描かれていく。

尋問する刑事役の石動三六が本物の刑事か?と思えるほどで、芝居がメチャクチャ上手いという風でもないが、その朴訥とした喋り方や存在感にドキュメンタリーの刑事のようなリアリティがある。

結局加藤は旦那にもDVで振り回され、それを救ってくれた婦長の小川の言いなりにもなり、どんどん不当な要求をエスカレートされて、ひたすら窮地に陥っていく展開だが、その様子を延々と描いている。

小川真実が少しずつ要求をエスカレートさせていくところにもちょっとしたリアリティがあるが、最後は不当な要求に耐え切れなくなった加藤が小川を殺すとか修羅場になるのかと思いきや、それまで尋問してきた石動刑事が加藤の証言からちゃんと小川を逮捕して終わるという、これまたドキュメンタリーのような終わり方で、なんとも固い出来の作品である。

わりと隙なく展開していくので、飽きずに見ていられる一篇。 2021/04/27(火) 00:06:35 その他 トラックバック:0 コメント(-)

追悼 若松武史・モンテ・ヘルマン・隆大介




個性の強い名優や名監督が、このところ立て続けに亡くなられた。

まずは若松武史さんが亡くなった。

元々は寺山修司、天井桟敷の名優だが、映像作品だとやはり「エンジェル・ダスト」の逆洗脳士役の怪演が未だに忘れ難い。

また『相棒』「消えた死体」の、名曲喫茶で杉下右京と意気投合するポニーテール姿のヤミ金社長役や、「リバースエッジ 大川端探偵社」最終回の石橋蓮司の所長を付け回す不気味な男役も良かった。

その他、「標的 TARGET」の竹内力の元パートナーだが敵対するスナイパー役や、「溝鼠VS.毒蟲」の極道役などなど、怪しい得体の知れない不気味な人物の怪演が生々しくも最高な名優だった。

若松武史さん、ご冥福をお祈り致します。



モンテ・ヘルマン監督も亡くなられた。

やはり「銃撃」「断絶」が特に好きだった。



最初の「魔の谷」はまだ普通の映画に近かったが、まるでアメリカの鈴木清順映画か大和屋竺映画のような「銃撃」の不可思議な魅力はなんともワン&オンリーなものだった。



また「断絶」には映画の原型的な魅力があり、よく70年代のヴェンダース映画との相関を思ったものだったが、別にアメリカンニューシネマのような感傷的な描き方をまるでしていないのに、青春映画としての尋常ではない絶望感が映画全編にあり、なんとも絶望的に生々しい青春映画としての魅力も過度にある傑作だった。

タランティーノを世に知らしめた映画「レザボア・ドッグス」の製作総指揮でもあった。

なんとも得難い独特な映画監督だった。

モンテ・ヘルマンさん、ご冥福をお祈り致します。




隆大介さんも亡くなった。

無名塾第1期生で、「影武者」のあまりにもピッタリな信長役、「乱」の一文字三郎直虎役、「幻の湖」の長尾正信 ・吉康役、OV「ブラック・ジャック」の実にクールなブラック・ジャック役、「大脱獄」の意味深な刑務官役、「孤高の叫び」1、2の組長役、TV「臨場」の坂東刑事役他などなどの好演が特によかった。

不祥事もあり、一時期停滞していた時期もあったが、やはり晩年まで変わらず独特の個性のある名優だった。

隆大介さん、ご冥福をお祈り致します。 2021/04/24(土) 00:06:07 R・I・P トラックバック:0 コメント(-)

『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら』



松居大悟『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら』、

撮影所バイプレウッドは富士山の麓にあり、日々民放各局の連ドラや、映画などの撮影が行われ、そこには100人以上の俳優たちがいた。

田口トモロヲ、松重豊、光石研、遠藤憲一ら元祖バイプレイヤーズもネットの連ドラを有村架純主演で撮影していた。

撮影前、ふと有村が共演中の犬の風(ふう)がいないことに気づくが、実は風は行方不明になっていた。

田口、松重、光石は風に起こった顛末を語る。

一ヶ月前、濱田岳、柄本時生、菜々緒、高杉真宙、芳根京子ら若手役者らは自主映画「月のない夜の銀河鉄道」を撮影していた。

監督は濱田で、主人公は小さなチワワ。

ラストで100人の役者がSLで祝杯をあげる物語で、車掌役で役所広司も参加していたものの、役者は全く集まっておらず、超低予算故にスタッフを役者が兼ねていた。

撮影は難航し、主役のチワワは逃げてしまい、SLもロケを断られてしまう。

挙句、濱田が監督風を吹かせたので菜々緒、高杉、芳根は濱田組を降りてしまう。

残った濱田、柄本を見かねた元祖バイプレイヤーズはSLのセットを貸す。

その頃菜々緒は、リスペクトする天海祐希からバイプレウッドが買収される話を聞き、二人で撮影所存続のための署名を集めようとする。

濱田らは100人の役者を集めようと撮影再開するも、同じスタジオにいる勝村政信や渡辺いっけいらにストレスが溜まっていた。

ついには役者同士がぶつかり合い、犬の風も撮影所を駆け回り、徐々に大騒動に発展していく。




テレビ東京のドラマの劇場版。

元々は元祖バイプレイヤーズ(+大杉漣、寺島進)がメインのシリーズだったが、「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」では寧ろ、元祖バイプレは脇に回り、多くの他のバイプレイヤー役者たちが毎回一座を組んで主演する形式に変わったが、そのスタイルのまま劇場版になったような映画。

役者さんで、特にバイプレイヤーで活躍してる人たちは元々小さな劇団や自主映画から出てきている人たちも多く、有名になってからもそういう活動を続けている人もわりといるが、ここでバイプレイヤーの面々がやってることも自主映画だったり、予算がなくて製作中止寸前の映画のために駆けずり回っていたり、またはこのバイプレウッドという撮影所存続のために署名を集めたりという、わりとリアルで地道な活動がメインで描かれている。

ここに今は売れっ子となった華やかな役者さんたちのリアルな裏の活動の一端が見えるようで、役所広司が濱田岳の作る自主映画を楽しみにしていたりするところなど、元祖バイプレの大杉漣さんが、売れっ子役者になってからも小さな自主映画に主演したりしていたことなどを想起させる。

この映画は、ファンタジックな描写や豪華俳優陣の華やかさを見せるのと同時に、そういう役者さん達の地道な部分をリアルに描いているところもあり、そのファンタジーとリアルの融合が中々絶妙なのである。

思い通りには行かない撮影現場での役者さんたちのそれぞれの想いが、ハチャメチャな騒動の中、コミカルかつリアルに繋がっていくその温もりに、通常のヒューマンドラマにはないくらいの温かみがあり、ファンタジックな味付けもそこに見事に融合して、意外なくらい感慨深い終盤を迎える映画になっている。

しかも「バイプレイヤーズ~名脇役の森の100日間~」のように、元祖バイプレが主役ではないので、出てくる登場人物の誰もが主役であり同時にバイプレイヤーでもあるという描き方になっている。

誰もが主役で誰もが脇役という映画にはガイ・リッチーの「スナッチ」があるが、こちらはあんなキッチリしたエンタメストーリーは無く、役者陣が自らを演じるドキュメンタリー風味とファンタジーが融合したお話なのだが、まさに映画タイトルに相応しい描き方で、それ故にか役者陣がみんな生き生きしている。

そしてラストには絶妙なところで、故大杉漣氏の姿が映し出され、中々感無量だったりする。

元々テレビシリーズのファンなので、劇場版はそれなりにそこそこ面白ければ別にいいと思っていたのだが、しかしこちらの予想を超える、テレビシリーズ以上の完成度の高い秀作になっていた一篇。 2021/04/20(火) 09:55:17 東宝 トラックバック:0 コメント(-)
次のページ