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0線の映画地帯 鳴海昌平の映画評

「恋文裁判」

中村登「恋文裁判」、

女学校では若い教師の角梨枝子と岡田英次がいつも議論し対立していたが、ある時角から岡田に宛てたとおぼしきラブレターがみつかり校長は角を問い詰めるが、角にはまるでおぼえがなかった。

そこで犯人さがしも兼ねて角は女生徒たちに好きな人に向けて手紙を書かせるが、それぞれ恋愛感情の書かれた手紙を読んだ角と岡田は生徒が心配になり、素行を調べるようになる。





小糸のぶ原作の、女生徒のラブレターをメインにした青春恋愛映画。

しかし1950年代の映画ではあるが、途中から主役が個々の女生徒一人一人になっていく展開で、まるで今の湊かなえの小説やその原作を映画化した「告白」のような描き方であり、やっていることも今の「日常の謎系ミステリ(というかサスペンス)」みたいな映画だったりする。

その意味では古い映画だが随分と今風な構成と内容の映画だなと思う。

岩崎加根子や桂木洋子、加藤治子などが女生徒役だが、岩崎は恋愛の妄想を手紙で語り、ある女生徒はタカラズカみたいな歌劇団の男役、水ノ江竜子の追っかけだったが、水ノ江の男=木村功との恋愛事情を目撃して、まるで失恋したように引きまくる。

その様子を心配した岡田が後をつけて見守るのだが、一番意味深なのは桂木洋子で、二本柳寛の妻と仲良くなった後二本柳に初恋の気持ちを持つのだが、彼女には二本柳夫婦と楽しく過ごしたことが良き思い出だったのに、数年後再会した二本柳に招かれた家には違う女性が二本柳の妻として居て、それにより桂木の美しき思い出と清純な初恋の気持ちは踏みにじられてしまう。

だが桂木はその後も二本柳に屈折しつつも恋心を抱き続けていくが、その様がサスペンスタッチで描かれていて、ここでは特に少女の繊細な気持ちが絶妙に描かれていく。

どの話も最後の加藤治子の挿話に至るまで繊細な少女の気持ちをそれぞれ日常の謎サスペンスのような描写から露出させているが、この辺りに今の湊かなえ的な感じが特にする。

タイトルにある裁判なんてのはまるで出てこないが(苦笑)構成やサスペンスタッチな描き方、その繊細な少女の気持ちの捉え方などなどに随分今風な感じがする、先駆的な作風の佳作な一篇。


恋文裁判 (1960年)恋文裁判 (1960年)
(1960)
小糸 のぶ

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2013/01/31(木) 02:53:30 松竹 トラックバック:0 コメント(-)

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